面倒見の良いHiroちゃんが飼っていたオナガドリのカクノシンのお話
あれは私が中学一年生の時でした。
一学期の終業式を終え帰宅すると家で母がギャーギャーとパニックに陥っていました。
小学四年生だった弟がオナガドリのヒナを拾ってきたからです。
小学校のプール脇にあるプラタナスの木にオナガドリが巣を作っていたらしく、そこから落ちてうずくまっていたヒナを掃除当番だった弟のクラスメートが見つけ教室に連れ帰ったそうです。
教室に連れ帰ったものの、小学校もその日が終業式。
教室で飼う訳にもいかずクラスの中で鳥を飼っていて、尚且つオナガドリのヒナを巣立ちまで飼える人を募ったそうです。
弟はそこに立候補したのです。
『一旦家に帰ってお家の人と相談してから』と言う先生の言葉にも『ウチは絶対に大丈夫です。』と無断で連れて帰って来たのです。
当時家で飼っていたのはセキセイインコ一羽。
オナガドリなんて飼った事などありません。
学校からは『もし飼うことが難しいのなら教員の中で探しますので』と電話を貰いましたが、元々好奇心旺盛な家族です。
この少し前からは父は病気で入院していて手術の準備をしていました。退院は二学期が始まってからの予定です。
つまりその年の夏休みはどこにも行く予定がなかったのです。
弟は終業式の一週間後から夏休みの間中、親戚の家に預けられる予定でした。
弟が連れて来たオナガドリのヒナは私と母が面倒をみることになりますが、滅多にない機会なのでヒナを巣立ちまで面倒をみることにしました。
ここで問題になってくるのは餌です。
オナガドリが何を食べるのか知らないのです。
当時は今のようにパソコンでちょっと調べるなんて出来ません。
以前セキセイインコでお世話になった獣医で電話をして事情を話、飼い方を教えて貰いました。
『飼う側が与えられるのであればミミズや虫、無理ならば九官鳥の餌をお湯でふやかして与えて下さい』と言われたので、迷わず九官鳥の餌を購入して与えてみました。
まだ自力で食べられる時期ではないらしく割り箸で餌を取ってくちばしに近づけると想像以上に大きな声で、翼を震わせながらアピールして食べてくれました。
ずいぶんとお腹を空かせていたようです。
満腹しておとなしくなると今度は糞の問題です。
巣を汚さない為の習性なのか、オナガドリを入れておいた靴の箱の淵に止まると外に向けピュッと糞を飛ばすのです。
これは野生の習性と諦めて箱の下に新聞紙を敷いて対応しました。
この日はもう次から次へと問題が生じては一つずつ解決法を考えて夜を迎えました。
翌朝です。
まだ陽が昇る前、漸く空が白んで来た頃から餌をねだり大きな声で鳴き始めました。
これは近所迷惑です。
とりあえず餌を与えて黙らせると、毛布をスッポリと被せ、もう一度寝て貰いました。
名前がないと不便と『カクノシン』と名付け、飼っていたセキセイインコの小屋にカクノシンを入れ、セキセイインコには移動用のゲージに移って貰いカクノシンの家も確保しました。
夏休みが開ける前に自宅から1キロ程離れた山にカクノシンを帰しました。
が、しかし。カクノシンは翌朝何事もなかったように自宅のベランダに戻って来ました。
なのでもう一度放鳥し、また帰って来るというループが暫く続きましたが、いつのまにかカクノシンは戻って来なくなりました。
きっと巣立ったのでしょう!! 感慨深いものがありました。