多くの方にとってフォトエッチングとは聞きなれない言葉でしょう。
それでもエッチングについてはご存じの方が多いと思います。薬品を使って金属を腐食(溶解)させて加工する技法です。身近なところでは、建物の入り口にある社名の入ったネームプレート(表札)があげられるでしょう。また学校の美術の授業で銅版画の作成を体験した方もいらっしゃると思います。
使用する金属は、銅、ステンレス、ニッケルなどがあげられます。腐食用の液に
は、硝酸、塩酸でも可能ですが、錆色の酸化第二鉄液がより適しています。エッチングには、デザインや装飾品など意匠と基盤や繊細な部品など工業用を目的としたものがあります。
硝酸などを使った場合、腐食用の薬品に耐えられるタールなどの塗料を使ってエッチングを行ってきました。銅板にタールで絵を描いたり、またはタールを塗り、釘のような先の尖ったものでひっかき傷を作って線画を作成します。タールのある部分はそのままで、なにも塗ってないところは腐食されて凹凸ができます。この板にインクをのせて刷りあげると銅版画のできあがりです。
タールによる手書きの絵は味のある作品です。しかし全く同じものを描きあげることは至難の技、というよりほとんど不可能に近いものです。この不可能を可能に変えたのがフィルムの使用です。
手書きでもパソコンによる画像でも、これを原画にしてフィルムを作ります。エッチングですのでカラー画像には対応しておりません。モノクロのみです。
絵画の場合、中間のグレーを表現したいときは、ドットで描きます。小さい点、大きい点などドットのサイズの変更、その形を丸だけでなく四角形にしたり、間隔をあけるなどで濃淡の表現が可能になります。ちょうど新聞の写真と同じ手法です。
ではフォトエッチングの特徴についてみていきましょう。
その名の通り、写真技術を利用します。原画をモノクロ(黒と透明)のフィルムにします。黒い部分は光を遮り、透明のところは光を透過します。これを利用して、金属の腐食する部分と保護される部分を作ります。
簡単に説明すると、腐食はだいたい次の手順で行われます。
1.フィルムができたら金属に皮膜を作り、このふたつを密着させて感光します。
2.皮膜を焼き付けします。
3.露光していない部分の皮膜を洗い流します。
4.これをエッチング機に入れて塩化第二鉄液のシャワーをかけます。
高価な金型が不要で、金属の腐食による加工なので短時間での仕上がり、試作品や小量での対応が容易にできます。また従来の金属加工のように曲げる、打ち抜くなどの作業がないので金属に対しバリ、ヒズミ、カエリの心配がなく高精度な製品が望めます。
エッチングは用途に応じて、ネームプレートのように金属の片面のみを腐食させるもの。両面から同一のパターンで腐食させて貫通させるもの。表面と裏面で残す部分の大きさを変えることでくり抜く部分にテーパーをつけたり、凹型に腐食させたりが可能です。
板厚は、0.05mm未満から1.0mmまでが一般的で、フィルムは複数回の使用にも耐えられるものです。ミクロン単位の画像が可能なので複雑で緻密な図をフィルムにすることさえ容易に行えます。そのため産業用などの精密部品の生産で数多く使われるようになりました。
今や、フォトエッチングは、プリント基板をはじめ、カメラ・光学機器の反射リニアスケール、測定機器・医療機器のアパーチャー(絞り)、半導体キャリア、電子・電気機器のフィルムヒーターなど、電子、電気、自動車、医療機器、光学関連、事務機器等、多岐にわたり貢献しています。
そしてもうひとつ。もし興味がおありでしたら、自宅で「卓上エッチング装置」を使ってみてはいいかがでしょう。プリント基板の作成ばかりでなく、銅版画やオリジナルのアクセサリ作りをも楽しめそうです。
フォトエッチングは、工業用ばかりでなくパーソナルユースにも手を広げた夢のある技法といえるでしょう。